舞台も終わり、打ち上げもなく、次が待っている。

バラシを終えて荷返しに向かう途中で栄之進が
「あ、銀座のど真ん中だ」と言った。
本当だ。そこは正に銀座のど真ん中で右も左も正面も(おそらく後方も)煌びやかなネオンや街燈でぴかぴかしている。
時代が少し違うけど、東京の東京たる風景を垣間見た気がした。

荷返しを終えて、新宿で降ろしてもらう。
「池袋まで歩いてどれくらい?」と聞かれ
「30分くらい。」と適当に答えたが、後になってよくよく考えてみると高田馬場から池袋まで40分かかるのでどんなに早くても一時間はかかると気づいた。まあ、夜の散歩は好きなので歌いながら帰路をてくてく歩く。
ふと、辺りを見回すと何所かで道を間違えたらしくいつのまにか目白に着いていた。

数年前の、四六時中空腹だった時期を思いだした。
夜な夜な良い夜景を探しに連れ出された。マンションの最上階、公園のジャングルジム毎日のようにいい見晴らしを探すのにつき合わされ、結局見つけたそこいら一帯での一番の夜景は小さな坂道の中腹だった。事ある毎に足を運んでいたのだけれど、そういえば最近行ってないなと思いコーヒー牛乳を買ってその場所に足を運んでみることにした。

住宅が何軒か潰されたらしい。以前よりも見晴らしが良くなっていた。
曇っていたために闇はくすんでいたけれど地味な安っちいぴかぴかの夜景。
結局、未だにこの場所すげえ好きだわ。

元気の無い奴がいたら、いい飯やいい酒やいい風景をあげるのがいいと思っている。上手に笑わさられたら最高だと思う。どうせ大概は時間の解決する問題で、解決するまでの期間を何を以って誤魔化していくかが要なんだと思う。そういう場所を、思えばたくさん知っている。この坂道もそのうちのひとつで何気に色んな人に教えた。
 そんなことを考えていたら、何であの輩は夜な夜な俺を引っ張りまわしてたのかその理由が少し分かった気がした。

しかし、色んな人が色んな風景を見せてくれた。
んで、今後も、色んな人が色んな風景を見せてくれるんだろうなあ。
だから俺も、色んな人に色んな風景を見せてやるしかないわ。

コーヒー牛乳を飲み終える頃にはくすんだ曇った空が明るくなりはじめていた。
小雨で手帳が少々濡れた。