「11時に高井戸集合 防寒具用意」

というメール。釣りに行かないかと誘われたが、釣りのことは何も知らない。高井戸で釣りができる場所があるのかしらん。などと思いながら約束の場所に行くと栄之進がいる。

「何処で釣りするの?」
「沼津らしいよ。」

程なくして企画主宰者のOみさんとKみさんが来る。本格的に磯釣りらしい。というより何より釣り人生初体験の期待と不安で胸躍る。東京より二時間くらい高速を飛ばす。道中ガン寝。高速を抜けて目を覚ますとそこは沼津だった。

 車を降りると先ず真っ先に満月が目に入る。
満月の所為で異様に青くなっている。次に目に入ったのは星。オリオン座だけは知ってる。星明かり月明かりに照られて何やら青白い陰に為る。釣れる場所を探す。

 AM2:00頃釣り開始。

右も左もわからないが、どうやら釣りと言うのは竿を持って糸を水面に垂らすらしい。見よう見まねで垂らす。竿についているハンドルをぐるぐる回すと糸が引っ張れるらしい。イソメという分断しても分断しても死なないミミズを使う。

 念仏鯛(通称「金魚」)が釣れまくる。うざったいくらい釣れる。どうやら今回の敵はこいつらしい。如何にこいつを釣らずに行くかが問題だが、釣れちゃうものは仕方ない。釣れないよりかはいいし。
 栄之進がムツを釣る。
 Oみさんが巨大なカサゴを釣る。
 
「魚も人を選ぶのだよ。」

 そういうものなんかもしれない。

 AM5:00頃日の出。

釣り場の背には山があって、山間から光が射しはじめる。
素晴らしい光景なんだけれど念仏鯛しか釣れない。いい加減早く寝ろよう。
日が出ると辺りには人が増えてくる。子共が話しかけてくる。聞けば隣の市から親と来ているという。手伝ってもらって釣りに望むが念仏鯛しか釣れない。

「おじちゃんは何歳?」
「幾つに見えるよ。」
「19」

「オーラの無さを恥じろ!」とOみさんに言われる。
朝になってくると魚も寝ているのか一向に当たりが来ない。隣では手だれのおじさんがたがアジを釣りまくっている。
 釣れない。
 釣れないが、オキアミを垂らし冨士と海と山に囲まれて呆然としていると色々な事を考える。今日以降、何が起こってくんだろう。昨日以前、何をしてきたんだろう。あ、また念仏鯛。

「贅沢な時間の使い方だねえ。」
「道楽だねえ。」

近いような遠い場所でウミネコがミャーミャー言ってる。

 AM11:00頃 魚を焼き始める。

なんでも丸焼き。とにかく丸焼き。カサゴもカワハギもアジも丸焼き。
念仏鯛はあまりに釣れるので海に捨てた。一匹残ってた奴をヒラキにして焼くと、思いのほか旨く、捨てなければよかったと後悔した。カサゴが旨い。アジも旨い。気づいたら、食ってるのは俺だけでOみさんとKみさんは炎天下の中寝ている。栄之進は黙々と釣りを続けてる。

 PM4:00頃 目が覚める。

いつの間にか眠っていたみたいだ。

「寝ているお前の上をフナ虫が這ってたぞ。」

口の中に入られなくて良かった。
目覚ましがてらにやることも勿論、釣り。
べラが釣れた。どうやらあの忌まわしい念仏鯛はこの時間にはいないらしい。今こそ勤しまんと竿を握る。周りには段々誰もいなくなってくる。人気が引きはじめる。太陽が沈みはじめる。水面にたゆたうきらきらの色は白色から黄色を経てオレンジへ、最終的には赤くなって辺りはまた暗くなった。

 ゴンズイが釣れる。
 ゴンズイの髭は毒があるらしい。「毒があるから刺されてみろよ」と言われるが、後日聞いた話ではゴンズイの髭で絶命する人もいるらしい。危ない連中だ。

 PM7:00頃

 夜も更けて、ゴンズイばかりやたら釣れ出す。それしか釣れないので帰ることにする。

 闘いながら憩い。そんな遊びだ。初めての釣りは非常に面白かったが、俺ガ釣ったのは雑魚ばかりだ。「釣り人はヒトデとナマコ釣ってなんぼ」誰が言った言葉かは知らないが、そんな言葉があるとか無いとか。じゃあ、次は外道を釣ろう。
 ぷか、ぷか、ぷかと水面が揺れる音が耳について気持ちいい。帰りの車内でも寝た。ぷか、ぷか、ぷか。ぷか、ぷか、ぷか。きら、きら、ぷか。